今回の映画を制作するにあたって、監督としてこだわった部分を少しだけここに綴ります。
もう本編を観た方も、まだ観ていない方も、作品を鑑賞する見方が少し変わるかもしれません。
もしご興味があればご覧下さい。
●譲れなかったポイントは3つ
①「誰がみても面白いドラマ」
児童養護施設とは縁のない、一般的な観客が見てもちゃんと面白い作品であることが第一の条件でした。
とはいえ、最初の段階の脚本は自分の想いが強すぎて、また伝えたいテーマが多すぎて、作品としてとてもアンバランスなものになっていました。
僕が信頼を置く脚本家さんのアドバイスや、劇団青春事情の俳優さんや演出家さんからのアドバイスやご意見をたくさんいただき、何度も何度も脚本を書き直して、今回のかたちに至りました。
最終的にエンドクレジットでは脚本に関わったスタッフの人数が一番多くなっています。
②「お笑い芸人」
「児童養護施設出身の若者」をテーマにした作品ですが、おそらく作品を世に出した時に、興味のない人は見てくれないんじゃないか。もっと若い人や多くの人が「観たい」と思える題材はないだろうか。と思っていました。
そんな時に、アメリカのコメディアンのことを思い出しました。
アメリカでは黒人やユダヤ人、最近ではインド系のコメディアンも非常に多いといいます。
彼らは自分達が差別されて来た歴史や厳しい現状を逆に笑いに変えて多くの人々を笑わせているといいます。
逆境を力に変えるパワーやダイナミズムは、ドラマの題材として「観客に勇気を与える」ことができるいい素材だと感じました。
そして、実際に虐待を受けながらも、現在はお笑い芸人として活躍されている方が日本にいることを知り、その方に会ってお話を聞くことができました。
彼が今まで感じたこと。考えたこと。そして今、何を表現しているのかー。彼は初対面の僕にたくさんの話しをしてくれました。
その話をもとに、僕の中から生まれたキャラクターが今回の主人公「和樹」です。
出来あがった映画の中のキャラクターに現実味や深みがあり、血の通ったキャラクターになっていたら嬉しいです。
③「現実に即していること」
僕が児童養護施設で暮らしていたのは、もう十五年以上前になります。
僕が知っている施設の環境はだいぶ変わっているはずです。
現実に今起きている問題を描きたい。
そんな思いから、僕は取材をはじめました。
知り合いの児童養護施設の先生方と飲みに行って深いお話を聞いたり、
東京で施設の退所者を支援する団体に参加しながら、実際にそこを利用している方々と交流したり。
昔から変わらずにある問題も、これから変わっていくであろう問題も、たくさんのことが見えて来ました。
そして、今回の短編映画ではまだまだ描くことができないくらいに、課題は山積みであると思いました。
今回の映画で描かれていることは、その中のほんの一部であるし、多くはキャラクターの背景に隠れているのです。
そんなこんなで、今回僕が企画・監督した映画「レイルロードスイッチ」が完成し皆様にお届けできるようになっのですが、まだまだ描きたい課題や具体的なケースがたくさんあります。
社会の多くの人々がその事実を知り、みんなで考えることで解決のための糸口が掴めるのではないかと信じています。
とはいえ、まずは何も考えずに楽しんで映画を観て欲しい。
そして観た後に、キャラクターの背景だったり、現実に起こっていることに興味を持って考えてもらえたら本望です。